姫路城の北、書写山山上には性空上人が開いたとされる円教寺があります。仁王門から深閑とした参道を降りると京都の清水寺にも似た摩尼殿(まにでん)が現れ、さらに映画のロケにも使われた三つ堂、奥の院など、重要文化財に指定された建築物が次々と現れる。円教寺は正に山上のワンダーランド。境内を歩くだけでも十分にハイキングを楽しめました。
プロローグ
姫路に来て一週間が経った頃、ウェルカムパーティで「もう書写山には登られましたか?」と問われた。「姫路の子は小さいときから皆が登る山ですよ」とか「姫路の古刹と言えば円教寺」とか皆さん勢いが止まらない。
その中で一番僕の気を惹いたのはこの一言
書写山は映画ザ・ラストサムライのロケに使われた山ですよ
うぉおお、そんなん聞いたら書写山登ってくるに決まってるじゃないですか。
記事に入る前に表記に関して。書写山は「書寫山」円教寺は「圓教寺」と書くのが正式なようですが、本記事では旧字を使わず「書写山」「円教寺」で記述してまいります。発音はそれぞれSHOSHAZAN、ENGYOJIになります。
オーケイ、Let’s GYO!
書写山登山
出発前にヤマレコで調べてみたら書写山には有名な登山口が6つ。
今回、僕が選んだのは書写山ロープウェイ登山口です。
その理由は3つ。
- 書写山ロープウェイ駅が分かりやすい
右も左も分からないような街でランドマークの存在は絶対なので書写山ロープウェイ駅をナビに入れると安心です。これが1番目の理由 - 書写山ロープウェイ駅にPマークを見つけた
そしてもっと街を知るためにも車で移動したい。となれば安心して車を停められる駐車場マークの存在は絶対です。これが2番目の理由。 - 帰りはロープウェイに乗りたかった
最後に3番目ですが、ロープウェイがあれば乗りたいじゃんwww
僕索道大好きなんですもん。
でも登りでロープウェイを使うのはいくら何でも運動不足ですよね。なので書写山ロープウェイ駅に一番近い「書写山ロープウェイ登山口」から登って、下りはロープウェイで降りるという計画を立てたってわけです。
俺、完璧じゃん 笑
書写山ロープウェイ駅
完璧な計画を立てて、書写山駅に来てみたら駐車場に「ロープウェイ専用駐車場」って書いてあったんです orz…
マジかよー。せっかく山を楽しみに来てるのに自分の都合でインチキして気分を下げるのはつまらんものです。聞きに行きましょう。
書写山ロープウェイ駅のチケット売り場に行きまして、ブースの姉さんに「あのー専用駐車場って書いてあったんですけど、山上駅で下りのチケット買うのって大丈夫ですか?」と精一杯トム・クルーズ張りの照れた笑顔で問いかけました。
するとブースの姉さんがキャメロン・ディアス張りの笑顔で「大丈夫ですよ」と返されました。
これで安心して車を置いて書写山に登れるぜー。
さんきゅー!キャメロン。
書写山ロープウェイ登山口から入山
書写山駅から書写山ロープウェイ登山口までは少し距離がありますが、曲がり角ごとに登山口の方向を示す看板があるので迷うことはありませんでした。
ここが書写山ロープウェイ登山口。看板には書写山参道と書いてありました。ここからしばらくは木の階段が続きます。最近雨も降ってなかったのにややぬかるんだ木の階段を過ぎれば、次は凝灰岩むき出しの岩の道。
カラッと乾いた岩の道にはトカゲちゃんも登場。可愛いっすなあ。
この時期にカナヘビがいるってことは夏から秋にかけては蛇もいるだろうなあ。書写山を歩いて登るなら春先がベストかも。
「らかん石↑」と書かれた分岐を見つけて登ってみたのがこれ。なんだか「モアイ像」みたいな石が奉納されています。可愛くていいっすね。
分岐は大きくもなくすぐに登山道に復帰。
そして突如現れる五丁目の丁石。五丁目の丁石の裏側は「五丁展望所」になっているのでした。ランドマークが見つけられないのでよく分かりませんが、真ん中の奥の方に見えるのは手柄山かもしれません。
なんにしても開けたけた景色はたまにしかないので嬉しいもんです。
五丁から六丁までは大した距離もなくすいすいと進み、八丁あたりまでくると普通の登山道(左)よりも岩(直進)の方が面白そうに見えてきます。
登山道はずっと巻いてる感じなので、直登すれば最終的には登山道にぶつかるんじゃないかな。
行っちゃおう。
なんだ、蛇行する登山道を歩く必要ないじゃん。むしろ岩登りの方が面白いよ。
十一丁目の砥石坂を登ると右手に分岐がありました。
「紫雲堂後展望広場を経て円教寺へ」ですって。円教寺まで700m足らずなら寄り道して行きましょう。
こちらにあった看板から「紫雲堂」の由来を要約します。
書写山に円教寺を開いた性空上人は京都生まれ。九州の霧島にて修行を行い法華経を極めた。30年近い修行の後、性空は京へ上ろうとするが、九州からずっと性空を先導してきた紫雲がなぜか書写山に留まる。「ここが終生の道場か」と察した性空は書写山に入山。山の麓から見えた「紫雲」はこの辺りだったはずというのが紫雲堂の云われで、古くはこの場所に茶屋があって参拝者の休憩場所になっていたようです。
僕的補足。紫色の雲というのは念仏行者の臨終の際に阿弥陀仏がこの雲に乗って来迎されるというめでたい印。性空もそれをもって書写山に足を止めたということですね。
そんなことを考えながら林間を抜け書写山ロープウェイ山上駅に着きました。この山上駅、休憩所もトイレも展望所もあります。円教寺に入ると展望の開けたところは一か所くらいしかないので、山からの景色を楽しみたい方はここで楽しんでおくといいみたいですよ。
円教寺
さあ、お待たせしました。ここからは山が丸ごとお寺と言っても良い円教寺さん。入口の写真は撮り忘れましたが志納金500円をお支払いして入場します。
入口近くの木陰にあってたぶんみんながスルーする石碑。
ここに書写の名の由来が書いてありました。
私記二云ク 古老二云ク 書写トハ 本ハ 素戔ノ蘇磨ト 名ツク
とても写しきれないのでざっくりと要約します。
スサノオノミコトが雲州(出雲)に向かう際に一泊したので元々この山は素戔山と呼ばれていた。書写を直音の仮名にするとスサの音、素戔を拗音の仮名にすればショシャの音になる。文殊菩薩が性空上人に対して山の名を「書写」と示されたのでその後は書写山となった。
だそうです。
さて、円教寺境内。バスは左に向かいましたが、歩く人はここからどっちに向かえばいいのかさっぱり分かりません。入口で頂いた Shoshazan Engyoji Walking Map で道を確認してみます。
今、一番右下にいます。
うむ。とりあえず慈悲の鐘を直進して仁王門に向かおう。仁王様大好きだし。
道の脇に建てられた数多くの観音様に見守られながら坂を上がっていくと、円教寺内で唯一の展望スポットがあります。
ここから正面に見える山が城山で左側二段目の肩のところに姫路城が見えます。写真だと厳しいですね。肉眼でもやや厳しい。この展望スポットにはガイドの方(見た目が怖いけど笑 温かい雰囲気のノリのいいおっちゃん)がいらっしゃいますので説明を受けると良いです。
展望スポットからもう一坂上がれば仁王門。扁額には「志よしや寺」と書かれています。仁王門というからにはもちろん仁王様(金剛力士像)がいらっしゃいます。迫力ある大きな仁王様が左右で踏ん張ってらっしゃいましたが、残念ながら木枠の隙間が狭すぎて全貌が見えません。
うう。もっと見たいのに、残念。
仁王門を越えすぐに寺院が並ぶのかと思いきやしばらく深閑とした道が続きます。
摩尼殿
十妙院を過ぎ、坂を下って弁慶のお手玉を見て、湯屋橋を渡ると目の前に大伽藍が現れました。
摩尼殿です。
京都の清水寺のような舞台造り。摩尼殿は10世紀頃に創建されたのですが二度の火災に遭い、今の建物は昭和8年に再建されたものとのこと。
昭和にもこんな大伽藍を建てる技術が残ってたのかと驚きです。
これは登るっきゃない。
摩尼殿、たくさん写真を撮ったけれどもこのくらいで。大変よろしゅうございました。
次はラストサムライのロケにも使われた三つ堂(大講堂、常行堂、食堂)へ。
摩尼殿の裏から山肌を歩いていく道があったのでこれを進みます。
三つ堂
摩尼殿からの裏道で大杉や大仏を眺め、さらに歩を進めると景色が開けました。
なんやこれー。広すぎ。でかすぎんだろ。
大講堂は名前が示す通り講義の場所。元の建物は10世紀に花山法皇の命により建てられたそうですが、現在の建物は15世紀にまでさかのぼります。大陸と日本の折衷様式の建築デザインは天台宗の特徴を備えているとのこと。
装飾少なめでダイナミックさが良いです。ここは規模を楽しみましょう。
大講堂は表から参拝するだけ、常行堂も立入禁止です。常行堂が何の建物だったか見逃しました。
そしてザ・ラストサムライ、本命の食堂へ。
食堂は大講堂、常行堂とつながっていて、円教寺の三つの堂として知られる建物の西側を形成しています。食堂は僧侶が修行し、寝て、食事をする居住空間でだったそうです。
食堂の建築はちょっと面白いので説明看板を丸写しします。
食堂の最初の建物の建築は、後白河法皇の勅願により1174年に始まった。いくつかの自然災害により元の建物やその後に建てられた建物も倒壊した。現在の建物は15世紀半ばに着工されたが、日本最大の木造二階建て建築で、その規模が大きくて複雑であることが理由で、完成が遅れた。結局、食堂は5世紀にわたって未完成のままであった。その2階部分は大規模なリノベーション計画の一環として1963年に完成した。こうした長い建築過程によりいくつかの建築上の手違いが生じた。
例えば二階の南東角の屋根は常行堂の屋根にぶつかっており、これは二階の露台からはっきりと見える。
プークス!失敗の重要文化財いいね!さっそく見に行こう。
一階は写経場、二階は宝物(法物)の展示場になっていました。写真の右下にちょっとだけパンフレットが映っていますが、おそらくここが渡辺謙さんとトム・クルーズさんが絡む場所。とりあえず今日のミッション・コンプリートです。
いやミッション・ポッシブルと書くべきか。
さて食堂二階の宝物を一通り見て回ったら噂の露台に出てみます。この露台はぐるっと一周回れるので失敗作に出会えるでしょう。
これかー!重要文化財なんで笑っちゃいけないんですが、なんでこーなったってくらいギリギリまで攻めてるんでやっぱ笑っちゃう。
笑ってばっかじゃ可愛そうなのでちょっと格好いいところも載せておきます。
このように書写山円教寺三つ堂は美しい建築物であることに間違いはありません。
三つ堂、どれも大満足でした。弁慶鑑井戸を見て次は奥の院へ。
奥の院
食堂の裏を降りていくと奥の院。
開山堂は円教寺の開祖性空上人が入寂された1007年に上人の御骨を祀るために建てられたもの。ここでは勤行が千年以上に渡って毎日行われており、円教寺の中でも最も重要な建物であるとのこと。
千年以上お勤めが続いてるなんてすごいことじゃないですか。
開山堂、こちらも重要文化財です。現在の建物は1673年の建立で江戸時代の寺院建築の代表的な例であるとのこと。三つ堂のダイナミックさも良いですが、こうした細木の組み合わせの繊細さにも心を惹かれます。龍の装飾があったりお猿さんが隠れていたり、なるほど江戸期になると細かな細工がたくさん出てくるなあと足を止めて見入りました。
書写山山頂
たいへんに善きお寺でした。円教寺さんに満足したので最後に書写山の山頂を目指します。
大講堂の横から山に入っていき、広場を越えて、林間を進むと書写山山頂です。
書写山には三角点はないのかな。僕は見つけられませんでした。その代わりに白山権現様。
性空上人の入山以前にもこの地には素戔嗚尊(すさのおのみこと)を祀る祠があったそうで、性空上人が大講堂、摩尼殿に次いで第三の吉所としたのがここ白山権現です。
もちろんお参りします。
さて下山。登りと反対の道で書写山を降りてみたら出てきたのは摩尼殿の裏でした。なるほど大講堂-白山権現-摩尼殿は道でつながってるわけね。
観光で来られた方はたいてい書写山山頂までは行かれず帰られるだろうから、性空上人の言う「三つの吉所」を見て回れたのはハイキングのおかげ。
ハイキングも行に似たところあるからね。
じゃ、今回はこんな感じで。
今日のルート
今日のルートは書写山ロープウェイ登山口から入り、円教寺さん(仁王門、摩尼殿、三つ堂、奥の院)を回って最後に書写山山頂。下りは書写山ロープウェイを使わせもらいました。
登山よりも円教寺さんの散策が楽しかった。
あれはまさに山上のワンダーランドだ。
最後に書写山ロープウェイ。書写山ロープウェイは15分間隔で運行、生ガイドさん付きです。
索道から眼下の景色を見ようと思ったら先頭に並びましょう。
それじゃまたね。