東鳳翩山~単独行~

東鳳翩山~単独行~

おらが街の景色を目に焼き付けておこうと東鳳翩山に登ることにした。ゆっくりめの出発で駐車場に11時。ちょっと詩的な今回の山行だ。

単独行

よく一人で山に入るので、こいつは人嫌いなんじゃないかとか友達が居ないんじゃないかと思われてるかもしれないけど別にそんなことはない。数人で歩く時の楽しさは知っているし、友人もこの年にしては多い方だと思う。

ではなぜ僕が単独行を選ぶのかというと、まずは自分の好きなように動けることが大きい。ふと思い立って〇〇山に登ってみようと計画を立てる。事前に地図を頭に入れるけれども現地で見知らぬ道を見つければどこにつながるのかそれも行ってみたくなる。知らない道を歩くのは新しい発見とドキドキがあって楽しい。一人ならば陽の高さと自分のペースと疲れ具合を勘案して行くのか戻るのかも自由だ。そんな時はピークハントすら捨てて良いと思ったりする。

一人で歩くと自然の怖さを感じられるのも好きだ。道があると思って進んでいたらいつの間にか崖に出てあーこれを降りるのかーと思い込んでる瞬間、我に返る。自分はまだ大丈夫だなと思う。獣臭いなあと急ぎ足で通り過ぎた草むらから大きな音がして猪が走り去る瞬間、生きててよかったと思う。夕闇が迫るなか歩く竹やぶの音、獣っぽい鳴き声、何かが追いかけてくる感じ、なぜか後ろから聞こえる人の声、鈴の音。一人だとあらゆる感覚が鋭敏になる。街なかでは味わえないスリルだ。

道を選ぶにしてもペースにしてもなんだかよく分からない危険や恐怖も、一人なら、何もかもが自己責任で完結するのがいい。
そうして無事に山頂に立った時の感動、何事もなく下山した後の充実感。生きのびた喜び。
一人で歩くという行為はこうした感情を何倍にもしてくれる気がする。

東鳳翩山

さて詩的な話はちょいと置いておいて、おらが街の景色を目に焼き付けておこうと東鳳翩山に登ることにした。時刻は11時。ゆっくりめの出発だ。

一の坂ダム運動公園駐車場
一の坂ダム運動公園駐車場

今日は二ツ堂登山口から入ろうと思うので車は一の坂ダム運動公園駐車場に停めた。グラウンドで野球の練習もやっていて駐車場はいっぱいだったが”僕のジムニー”を端に停めることができた。
駐車場から舗装路を上がっていく。

二ツ堂登山口
二ツ堂登山口

二ツ堂登山口。心拍が上がってないせいもあるが駐車場から二ツ堂登山口までの舗装路の登りがきつい。登山口にかけられた温度計を見ると6℃だったが、階段に取りつく前に早々にTシャツを一枚脱いだ。
歩みを止めると肌寒いのだが登ってる間は軽装でいいだろう。

よく整備された登山道
よく整備された登山道

東鳳翩山は山口市民に人気の山で登山道もよく整備されている。取りつきは急で息が上がるが、今日、足が重いのは道のせいではなくここ最近の悩みのせいだ。普段、山に入れば浮世のことなどすぐに忘れて景色に見入ったり歩くことだけに集中できるのだがこの日は頭が曇ったままだった。

急登が終わればつづら折りが始まる。このつづら折りは直登のショートカットがあるが足が重いので道なりに歩いていくことにする。

このつづら折りが終われば傾斜も緩やかになり、一つ目の山を左に巻いて東鳳翩山が見えてくる。

登山道から見る東鳳翩山
登山道から見る東鳳翩山

写真を撮り終えて細い道を登っていると前方から下山者がやってきた。広いところで立ち止まり声掛けだけして先に通ってもらうことにした。
あと数メートルですれ違うところで下山者から声がかかる。

下:おい!立石!
立:あ?
下:立石やろ!俺、俺、きっちゃん!

まじまじと下山者の顔をながめると確かに高校時代の同級生きっちゃんだった。7~8年ぶりだろうか。あの時は仕事がらみだったので互いにスーツだったが、今日は登山服だ。しかも僕なんかは目深に帽子をかぶりサングラスまでかけている。よく気が付いたもんだ。

近況を語りあい、今日はもうひと山登るというきっちゃんを「またな」と見送った。

またな、きっちゃん
またな、きっちゃん

僕たちくらいの年齢になると「またな」は5年後かもしれないし10年後かもしれない。いや、正直に言うと次はないのかもしれないと互いに分かっている。だから「またな」という言葉には「また次に会うまでお前も元気で生きとけよ」くらいの意味がある。そんなことをつらつら思いながら歩いていると、いつの間にやら頭の中から悩み事が消えいつもの山行モードに入っていた。

自然の中を一人で歩くのはいい。だけど人と話すのもいい。特に青年時代の友人と話すのはいいものだ。それぞれの人生はあるにせよ互いにそこに責任はなく純粋に懐かしく楽しく話せるからだ。

枯れ沢のところ
枯れ沢のところ

みんな知ってる枯れ沢を過ぎる。気温は3℃。この枯れ沢から少し登れば山頂手前の広場だ。

そう言えば東鳳翩山では高校時代の友人によく出会う。3年くらい前は山頂手前でT君と出会った。まあT君は山口市に住んでいるのでここ東鳳翩山で会ったとしてもさほど不思議ではないのだけれども、先ほどのきっちゃんは宇部に住んでいるはずだ。

人の縁とはつくづく不思議なもので、この日、このルートで、あのタイミングで狭い場所ですれ違っていなければきっと僕らは気が付くこともなかっただろう。僕もモヤモヤを抱えたまま歩き続けていたはずだ。

山頂手前の広場
山頂手前の広場

山頂手前の広場に出てきた。ここは板堂峠(いたどうとうげ)の分岐にもなっている。3年くらい前にT君と出会った場所だ。ここいらで少し休むかとも思ったが、まあ山頂も近いしもうひと頑張りすることにした。

写真に見えるこの先の階段が急でなかなかしつこく息が上がる。おりしも十数人の子供たちが階段を下山中でそれぞれに「こんにちは!」と声をかけてくれる。大変に嬉しい挨拶だが、平気な顔をして「こんにちは!」と挨拶を返すのも無理になったので歩みを止めた。自分は弱い。それを認めるのも大事だろう。

もう少し進めば景色が開けて山口の街を見渡せる場所がある。よく知ってる場所だ。山頂からの景色もいいけれども、僕はその階段途中の景色がお気に入りだ。

東鳳翩山山頂

東鳳翩山に到着。とりあえず山頂の看板を撮ったけれども人気の山なので相変わらず人が多い。

東鳳翩山山頂
東鳳翩山山頂

下界の景色も何枚か撮ったがどうしても人が映り込んでしまうので諦め、景色を目に焼き付けておくことにした。自分の街を俯瞰するのは面白い。山頂からは思い出のあるランドマークがたくさん見えた。まさにおらが街だ。

板堂峠方向へ

山頂で一服して降りるつもりだったのだが、たくさんの方が昼食を楽しんでいて、そんな中で煙草を吸う度胸が僕にはなかった。

山頂手前の広場から板堂峠へ
山頂手前の広場から板堂峠へ

早々に山頂を諦め「山頂手前の広場のベンチで一服を」と思ったのだが残念なことにそこも空いておらず、その時に板堂峠に抜ける途中に東屋があったことを思い出した。

二ツ堂まで喫煙を我慢できないので、きっと誰もいないであろう板堂峠方面に向かうことにした。

階段の登り降りが続く
階段の登り降りが続く

板堂峠に抜けるルートは中国自然歩道なのでたまにベンチが用意してある。ただ半分くらいは腐れベンチで落ち葉も積もっているので、そんなところではタバコを吸う気にはなれない。

しかし行けども行けどもかすかな記憶の東屋は見つからず。そのうち、開けた場所に奇麗なテーブルとベンチを見つけた。

今日のお昼ごはん
今日のお昼ごはん

そもそも煙草さえ吸えれば引き返して二ツ堂に降りようと思っていたのだがずいぶんと歩いて来てしまった。それならいっそ板堂峠を回って帰るかとパイ饅頭も食べて気合を入れる。
まだ東屋も見てないしことだし。

ショウゲン山分岐
ショウゲン山分岐

パイ饅頭後の一服で元気になり板堂に歩を進めることにした。前方に光を見つけて念願の東屋かと思ったらショウゲン山分岐だった。そうだ思い出した。このルートにはショウゲン山分岐があったな。ここも景色がよくてお昼を取るには最適なところだ。

たしかここからは下る一方だったはず。
すると記憶の東屋はどこに?

東屋
東屋

やっと東屋を発見した。結局、東屋は板堂峠からわずか400mのところにあるのだった 笑

板堂峠(いたどうとうげ)
板堂峠(いたどうとうげ)
六軒茶屋(ちょい手抜き)
六軒茶屋(ちょい手抜き)
萩往還
萩往還
今日のルート
今日のルート

図の下にあるSから左周りが二ツ堂ルート。上に線が伸びる分岐のところが山頂手前の広場で、右上の端っこが板堂峠。

なんてこった!

たかが煙草を一本吸いたかっただけなのに大遠回りしてるじゃないか 笑

人生の岐路と単独行

こんな感じで遊んでいる僕だけどいま人生の岐路を迎えていて(文中にあるように)思い悩んでいる。それは4月から別の地方への単独行となることが決まってるからだ。

まったく土地勘のないところで、そして誰も知り合いがいないところで、これまで培った自分の経験は活かせるのだろうか。この選択は結果として大遠回りになるんじゃないだろうか。そういった不安は常に尽きない。

だが一方で冒頭の「単独行」に書いたように、僕は知らない道を進むことが嫌いじゃないのだ。最初に一人で乗り込んでいって後からチームを押し込むようなミッションは若いころから一度や二度じゃなくこなしてきた。

これまでは地の利があったし、この先、危険を楽しむような余裕を持てるのかはまだ分からないけれども、今回のミッションも山頂の素晴らしい景色を見てそして無事に下山してきたいと願っている。

まあ、なんとかなるだろう。いや自分でなんとかするのだ。
それが単独行なのだから。

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