玄人好み!匹見わさびを鮫皮でおろして味わう

玄人好み!匹見わさびを鮫皮でおろして味わう

先々週、裏匹見の大神ヶ岳に登った際に山葵天狗社というお名前のお社に巡りあったんです。「わさびてんぐたぁ面白いお名前だなー」と家に戻って調べてみましたら、こちらやまあおいてんぐと読むんだそうで、こりゃまいったな。「やっぱ固有名詞ってぇのは難しいもんだなあ」そんな風に恥じいってたわけですが、山葵をわさびと読んだのもあながち間違いではなかったようで…

こちらの山葵天狗社様はワサビの豊作を祈る全国唯一のワサビ神社だそうです。天狗が病害虫の悪霊を蹴散らし山葵生産者を救うというストーリーの神楽(かぐら)が年に一度奉納されるという、なかなか興味深いお社なのでした。
参考:山葵神楽の画像検索

まくらが大変長うございました。本日はワサビの話でございます。

匹見わさび

匹見と山葵天狗社から検索をしましたら、昭和初期の島根は「東の静岡、西の島根」と呼ばれるほどのワサビの名産地だったことを知りました。しかもその9割は匹見産だったとのこと。匹見わさびのWikipediaを見つけましたので、さらに気になるワードをピックアップしていきます。

幻の匹見わさび

2013年度の島根県のワサビ生産は、畑ワサビ70.2トン、水ワサビ4.3トンの合計74.5トンで全国第5位であるが、上位3県(静岡県867.6トン、長野県604.7トン、岩手県432.7トン)とは大きく差がある。この為現在は、かつての生産量との極端な差異から、「幻の匹見ワサビ」と称されることもある。

匹見ワサビWiki

幻の匹見ワサビなんてネーミングがたまりませんな。

渓流式のワサビ田

匹見の水ワサビは、水質日本一の清流高津川水系の澄んだ水と、渓流式と呼ばれるワサビ田で栽培される。
(中略)
渓流式は、主に渓流を水源とし、山奥の渓流沿いに自然の地形を最大限に活かし、専ら人力で小規模に築田される。また、アクセスが容易な場所になく、一般に登山上級レベルの健脚が求められることが少なくない。

匹見ワサビWiki

やはり清流高津川が関係ありましたか。そして渓流式。これが良いですね。山葵天狗社の大神ヶ岳はたしかに山深いところにありました。

水ワサビの品種

水ワサビ、畑ワサビとともに、「島根3号」系が多く栽培されている。島根3号は1942年(昭和17年)、日原町(現・津和野町日原)の篤農、田中健次郎の協力のもと、島根県農業試験場の横木国臣博士が開発した。ワサビ栽培に致命的な被害を与える腐敗病に対して発見された唯一の耐病性優良品種で、島根県ワサビ産業の危機を救ったといわれている。
水ワサビ専用としては、匹見在来種のほか、在来種を選抜した「大神」などがある。

匹見ワサビWiki

はい!こんなところに「大神」の名前が出てきました。固有名詞の読みってのは難しいのですが、ここは大神ヶ岳(だいじんがたき)にちなんで”おおがみ”ではなく”だいじん”と読みたいところです。
間違ってるかもしれません。でも敢えて”だいじん”と読みたい。

うずめ飯

匹見町をはじめとする旧津和野藩には、ワサビを使用する料理が、既に中世には存在しており、なかでも「うずめ飯」は、宮内庁が実施した全国郷土料理調査によって選定された「日本五大名飯(めいはん)」の一つにもなっている。

匹見ワサビWiki

うずめ飯!そういえば何度か出走した益田INAKAライドのエイドでうずめ飯をいただいた記憶があります。たしかに郷土料理と言われてました。あれはワサビが肝だったのか。

Wikiを読めば読むほど経験に紐ついていく。実に面白い。よし!山葵を買いに行こう。

匹見わさびを買いに行く

何度か益田に遊びに行った際に、日原(にちはら)の道の駅で生わさびを売っているのを見た覚えがあります。匹見にも近いし日原で良いのでしょう。行ってみます。

道の駅 シルクウェイにちはら
道の駅 シルクウェイにちはら

やってきました道の駅シルクウェイにちはら。山口からだと津和野を越えてちょいと行ったあたり、石州瓦の街並みが見えたらそのすぐ先が道の駅シルクウェイにちはらです。

ありました生わさび
ありました生わさび

ありました生わさび。おっとー津和野産だったか。いや、いや、大丈夫。津和野は鹿足郡。鹿足郡は匹見の隣町だし。日原もワサビの名産地だし。幻じゃないかもしれないけどここは問題ないとしておこう。

島根わさびはフロンティア日原産
島根わさびはフロンティア日原産

https://shimane-wasabi.jp/

島根わさびの作り手はフロンティア日原さん。渓谷と水の贈り物と書いてあるので渓流式わさびに違いありません。上にフロンティア日原さんのリンクを張っておきました。作り手がはっきりしてるのはありがたいです。
自分が購入する島根わさびが島根3号か大神か品種を聞いてみたかったのですが、三連休は会社がお休みとのことで残念ながらつながりませんでした。大神ですとの言葉を聞きたかったのですが。

僕のキープわさび
僕のキープわさび

思いっきり名前が出ちゃってますが、こちら僕のキープわさびです。実は生わさび(芋)が置いてあるかどうか事前に道の駅シルクウェイにちはらさんに電話で確認しておいたんです。「万が一売り切れるといけないからキープしときました」とのお心遣い。ありがとうございます。

その、生わさび(芋)が置いてあるかどうかってところですが、渓流式のワサビ田は水温が年中一定でないと栽培ができないわけでして、ワサビにはいわゆる旬というものがないのだそうです。ワサビというとなんとなく冬のイメージがありますが、上記の理由から初秋の今でも買えるってわけ。
もっとも冬場のほうが辛みが際立つとも言われていますけどね。まずは食べてみて自分の基準を作らないことには辛いかどうかも分かりゃしません。
なので、まずは食う。

さて、ご対応をいただいた道の駅の姉さんに「前に鮫皮おろしもここで見たんすよね」と聞いてみると「陶器ならあるんだけどねー」とのお言葉。
オッケーです。せっかくなら山葵は鮫皮でおろさないとね。
鮫皮探しに行こう。

鮫皮おろしを買いに行く

もう二十数年前の話ですが実家には鮫皮おろしがあったんですよ。でも今の家じゃ見たことがない。さて、どこなら売ってるかなー。

山口市道場門前
山口市道場門前

もしかしたら津和野の道の駅あたりなら売ってるかもと寄ってみたのですがありませんでした。地場にないとなると専門店に行くしかないですわ。
んなわけで、山口市道場門前にやってきました。

厨房用品と刃物の専門店 末廣
厨房用品と刃物の専門店 末廣

うちも包丁を研ぎに出してる山口市道場門前の厨房用品と刃物の専門店「末廣」さん。ここになけりゃ、もう山口市内にゃ鮫皮おろしはない。ないはず。僕の勝手な決めつけだけどね。

そしたらやっぱりあるんですよ。期待を裏切らない末廣さんは流石っす。

鮫皮おろし中 ¥3,190
鮫皮おろし中 ¥3,190

鮫皮おろし長次郎作。これこれ。鮫皮おろしも様々あるんでしょうけど、見覚えがあるのはこの長次郎さん。さっそくサンプル品を手に取ってエアおろしをやってみます。

長次郎、小サイズはお手頃価格ですが芋に対して面が小さすぎます。大サイズは気持ちよくおろせそうですが5千円オーバーは懐に厳しい。悩ましいところですが何事にも中庸が肝心と、中サイズを購入しました。

ネットだと刷毛が付いてるセットがあるみたいで、刷毛を別に買うと結構お高いのでこのセットは結構お薦めですよ。

懐に余裕があるなら間違いなく大がおすすめです。気持ちよく擦りおろせるのは大です。

これでものが揃いました。いよいよ、生わさびを鮫皮でおろして、いただいてみることにします。

生わさびを鮫皮でおろしていただく

お寿司屋さんなんかからするとこんな当たり前のことをよく長々と記事にするなあと笑われるかもしれませんが、山葵天狗社を知って、匹見わさびを知って、生わさびを買いに行って、鮫皮おろしも買ってきて、自分で剥いて擦って、匂って、味わってなんてーのは、未経験だし滅茶滅茶楽しいもんです。

生わさびと長次郎
生わさびと長次郎

準備万端整いました。生わさびの表面をたわしでこすって、いざ!

芋の葉っぱを取る
芋の葉っぱを取る

山葵(ワサビ)の根っこを芋って言うらしいです。で、この芋の葉っぱのあるほうが新鮮で香りもよいとのことで、まずは葉っぱをむしっていくのですが…なんか葉っぱをむしっても全然すりおろすような形になりません。

面倒なので切り落とす
面倒なので切り落とす

面倒なのでざっくり頭を切り落としました。

でももったいないので齧ってみます。漢字だと分かりずらいね。かじってみたんです。

これさーかじっても全然からくないのよ。鼻にツーンがないのも不思議だけど、スッキリさっぱりとした清涼感とちょっと甘味すら感じるのが不思議。これワサビなんだよ!って出されると、え!そうなのって驚くと思う。

おもろいおもろいとしばらくかじってたのですが、本線に戻ります。

表面を軽く削ぎました
表面を軽く削ぎました

芋の表面はタワシでこすったらこそぐ必要もないみたいなんですが、アーバンスタイルな僕は薄めに皮を削いでみました。

そして擦る。

あ、そうだ。下の写真が長次郎(中)のサイズ感です。大のほうが良いんじゃない?って意味が分かっていただけるかと思います。

長次郎ですりおろします
長次郎ですりおろします

「お見合いはのの字のの字の指の跡」なんてぇ奥ゆかしい仕草を今の人に言って伝わるのか分かりませんが、 鮫皮で本ワサビを擦るときは、のの字を描くように優しく擦りおろすのが良いんだそうです。

ひたすらすりおろします
ひたすらすりおろします

時間はかかりますが、ゆっくりとひたすら擦りおろしていきます。葉の頭をかじったときに鼻を抜けていった青くて瑞々しい香りが、擦ってるだけで辺りに漂ってきます。天然アロマ(笑)

ちょうどいい塩梅で端からこぼれそうになったやつをちょいとつまんで口に含んでみました。

若干の甘みの後に先ほどよりもわずかにピリ。このピリは山椒の舌の痺れや唐辛子のような喉にくる痛みなんかじゃなく、即座に鼻に抜けてく揮発性のピリ&クッフーン。かじったときよりも若干強く鼻を刺激します。

まだまだすりおろします
まだまだすりおろします

まだまだすりおろします。いやしかしさすがは鮫皮。擦りおろした粒のきめも細かいし、空気を含んでなんだかふわふわした感じ。粒の残るチューブ山葵よりも断然クリーミーな仕上がりで、鮫皮を買ってきてよかったと感じる瞬間です。

刺身で実食!

アジの刺身でいただく
アジの刺身でいただく

日頃食べるワサビの量としてはまだ擦り足りないのですが、もう我慢ができないので刺身と合わせてみることにしました。
今日はアジ。台風が接近してるのと、最近、魚も高いって話でね。一応地物なんですがどうでしょう。
では実食!

実食!
実食!

醤油の表面からも分かるように今日のアジは脂がのってません。脂がのってなくてもアジはアジです。そのアジなのに、ワサビの風味が魚に勝っちゃうんです。間違いなく勝ってる。ちょっと調和がとれないレベルで。

今回、ワサビを乗せ過ぎってのもあるかもしれません。ワサビを中心に味わってるから普段と味覚が違うのかもしれません。でもどう味わってもこれは明らかにワサビの勝ちです。ホンモノの山葵だと箸休めにつまむレベルになっちゃうの? ツマとかハジカミみたいな感じに?

馬鹿舌と言われるかもしれませんが、舌は一つなので嘘はつけません。僕は刺身に合わせるならホースラディッシュのピリ辛でも構わないかななんて思っちゃいました。これがイカだとまた違う気がします。イカにはこの清涼感が合うはず。

もしかしたら蕎麦のほうが…

今回、葉の側だけおろしたのでワサビの芋全体の評価としては違うのかもしれませんが、女房と話したのは「ホンモノのワサビは蕎麦のほうが合うかもしれないね」ってことです。山のものは山のもの。たぶん蕎麦だったら間違いない気がします。

そう言えば島根には出雲そばってのがありました。ワサビをちょいとつまんで蕎麦に乗っけて、つゆ少な目で手繰るとこれは美味いに違いありません。鼻から抜ける清涼感にソバの風味と出汁が追いかけてくる感じになるはず。

いいぞ。次は蕎麦でやってみよう。

さてさて、匹見ワサビのWikipediaに以下のような一文がありまして、今回の台風14号の被害を僕はちょっと心配しています。

日本海側では、これまで無い大きな規模の集中豪雨も頻発する様になった。ひとたび集中豪雨が来れば、ワサビが流され収穫できなくなることはもちろん、ワサビ田そのものに対しても壊滅的な被害を与えるからである。

匹見ワサビWiki

今ならまだ間に合います。美味いもの食って島根を応援しましょう。

なんて僕が偽善的な言葉を言わずとも、美味いもの好きの蕎麦食いならもう好奇心を抑えられずに買いに走ってるはず。絶対うまいよ。飛ぶよ。

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