一人で沢が渡れない。濡れそぼった雑草に一歩踏み出す勇気がない。やばい。夏山イップスだ。
すみません。夏山イップスというのは「夏山を一人で歩くのが何となく怖くなった」状態を示す僕の造語です。なので検索してもこの記事以外で出てくることはありません。
いったいどういうことなのか、最近の例を2つばっかし挙げておきますね。
権現山で夏山イップス
美東町絵堂の権現山は542mの低山。山口県百名山の一座にも関わらず、あまり人気がないのか情報が少ない。今回、山すそを巡って権現山の登山口を探しだしてきました。
権現山の登山口には駐車スペースがなかったので一度車を戻し、近所の方に伺って萩・小郡道路の下に車を置き、再び登山口まで戻ってきました。元気よく権現山に入山します。
田んぼのどんつきにある登山口から始まるにしては不釣り合いなくらいの広さの林道が続いています。たぶん上流の堤の造成時のものでしょう。
朝の雨で沢から上がってきたのか、道の端に沢蟹を発見。そう。朝、山口は晴れていたのですが、美東についたときは雨がそぼ降っていたのです。この時にはすっかり雨も上がり、真夏の太陽が照り付けていましたが、木陰にはまだ雨のあと。ちょっと足元が気になりました。
コンクリ道が終わり雑草エリアへ。轍でいくらか草がなぎ倒されているものの、細長い草が足に絡まりズボンのすそが濡れます。この道は沢の横。ご存知のように湿った山はカエルの宝庫。ヘビでも踏みはしないかと神経質になりますす。
林道が終わり沢を渡ればここから先はおそらく山道です。手前にピンクのリボン。沢の向こうにもリボンと掛け札が見えます。道は間違っていないはず。沢も写真で見るほどには深くはありません。
でも、この沢を渡る気にはなれませんでした。雑草に足を踏み入れるのも、手前の木を支えで握るのも、沢に足を着くのも、向こう岸に足をかけるのも、なんだか心がざわついて嫌だったのです。
後から地図を眺めると、この沢を渡ればいよいよ権現山に向かうポイントだったように見えます。水際のヤマカガシの匂いでも感じたのか。それともここを渡ったら引き返せないとでも思ったのでしょうか。自分でも分かりません。とにかくあと一歩が踏み出せなかったのです。
観音山で夏山イップス
狙った山で道も間違っていない状況、はっきりした理由もないのに引き返すというのは滅多にないことで少々戸惑いました。が、権現山とは相性が悪かったのかもしれません。YAMAPで近くを検索して観音山に行くことにしました。
観音山は標高540m。ルート図を見ると1時間もあれば登れそうな山です。車で大木津川沿いを上がってみると猪除けの柵で行き止まりになっていました。草刈り中のお爺さんに聞くと「そこのお寺さんに停めると良いよ」とのお返事。ありがたいことです。
本堂の彫刻がシンプルかつ立派なお寺さん。わざわざ駐車の誘導までしてくれたお爺さんが「観音山の途中にこのお寺のお堂があってね。昔は道も綺麗にしとったけどねえ。」と教えてくださいました。
お堂があるなら道もそこそこ良いはず。早速山に入ります。
猪除けの針金をひねって門を開け中に。電柱の立つこの舗装路はしばらく続き、一丁、二丁と彫られた仏様が道の端で案内をしてくれました。コース横には沢が流れ水音が絶えることはありません。
沢かあ…少しだけ嫌な予感がします。
アスファルトが終わりコンクリ道。コンクリ道はやがて写真のような山道へと変わりました。直進の雑草に足を踏み入れる勇気がなく、左にあった別のコンクリ道へ切り替えました。コンクリ道は大きくうねり、再び観音山の方向へ。「良い選択だった」と思ったのもつかの間、
選んだコンクリ道の終点はまたも沢渡りでした。対岸にはピンクのリボンが垂れ下がり、沢を渡れば観音山に続いているはず。
しかしここでも気持ちが乗ってきません。結局この沢も渡ることなく観音山をあきらめることにしました。
地図を見ると残り1㎞もない場所で折り返したようです。この時、足は充分で、まだ汗もかいてない状態。空腹でもなく腹具合も良好。水分も補給食もありいつもなら万全の状態と言えます。
でも今一歩が踏み出せない。その原因が何だったのかというと、夏山イップス。
夏山イップスが原因に違いありません。
夏山イップス
繰返しになりますが、夏山イップスってのは僕の造語なので、検索しても多分ここ以外では出てきません。すみません。解説しますね。
夏山イップスとは
体調も装備も万全だけど気持ちが乗ってこない状態を、スポーツで言うところのイップスという言葉で表現してみました。頭に夏山とつけたのは夏山特有の以下の理由があると考えたからです。
- 夏山は思ったよりも体力を奪われるので、行きは良くても帰れるかの不安がある
- 夕立ち(朝立ち?)的な雨で地面が滑りそう・沢が増水してそうな不安がある
- 雑草や木陰、程よく湿った岩陰にヘビ、ハチ、アブなどの害虫がいそうな不安がある
これに加えて「一人でマイナーな山、初見の山を歩いていた不安」というのが大きく影響しています。夏山で起きるトラブルに一人で向き合わなければいけない漠然とした不安。これがもう一歩奥に踏み出せない理由だったのだと自分で分析しています。
単独行のヤバさを示すために、警察庁の「令和3年における山岳遭難の概況」から一部を拝借します。
単独登山者の遭難状況
令和3年における山岳遭難の概況/警察庁
単独登山(「山菜・茸採り」、「観光」等を含む。)遭難者1,282人のうち、死者・行方不明者は174人で、13.6%を占めており、複数登山(2人以上)遭難者の死者・行方不明者の割合(6.1%)と比較すると7.5ポイント高くなっている。
一人で歩くのはやっぱりヤバいんですね。その怖さを肌感で感じたのが夏山イップスってわけ。
夏山イップスは克服できるか?
夏山イップスは克服できるか。僕が思うに夏山イップスは克服しようがありません。
なので、どうしても夏に単独行したかったら、道の良い、沢のない、人の多い、人気の山を歩くしかないんじゃないかな。山口県だと山口市の東鳳翩山とか下関市の竜王山なんかがこの条件にあてはまると思います。
それか、単独行はあきらめて信頼できるバディと歩く。これが一番ですね。誰かいれば安心感が違うし、統計的にも生き残る確率が高そうですから。